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by fujimi_maesaki
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私の好きな書 開通褒斜道刻石

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「パウルクレーの素描」という本を見てから、記号や文字の集合体の作品がとても好きになった。
その作品を、書の作品作りに取り入れる事は出来ないかと、真似をしたりした。
文字に大小の変化をつけたり粗密をつけたり線にかすれを出したりと書いているうちに、
ただただ画面の面白さを追求する事に集中し、言葉との関係性や古典とのつながりを忘れていった。

そんな折、開通褒斜道刻石を見返す機会があった。
長い時間の流れの中で自然の力によって摩滅した崖に刻まれたのどかな作品に、
クレーの絵と出会った時の気持ちが重なる様な思いがした。
 
開通褒斜道刻石は、陜西省の褒城県の北にある石門の摩崖に刻されている。
褒斜道という道路改修の記念碑で永平六年から起工して永平九年に完成したといわれている。
普通、記念碑を作るなら、碑石を探して文字を刻するのだが、これはその道路の崖に直接刻されたものである。

この刻石の字形はとても面白い。
隷書の特徴である横広い文字がまるでパズルのピースのように隙間なくはめ込まれ、
横画が連なって並んでいる。
石の剥がれたあとなどのでこぼこの表面のせいもあってか、
線には和らぎが出て岩の模様と面白い字形から大らかな響きが生まれている。
また、全体だけではなく一つ一つの文字もじっくり見てみると、とても面白い形をしているし、
このバランスは同じ文字でも次に出てくる時にはまた違った形になって現れる。
このユーモア溢れる字形はその時代性を表しているように思えるのだが、
この魅力をより深めるために、秦から漢の時代の書の流れについて少しふれてみたいと思う。

秦の始皇帝が、六国を平定して統一国家を樹立してからわずか十五年で漢の天下となったのだが、周末の春秋戦国の長い争乱とさらに秦末の戦乱が相次いだ。
その間人々は心の安定しない時を過ごしとにかく慌ただしい世相であった。
それを反映して、書法においては大篆などの手の込んだものから、秦の小篆が生まれ、
さらにそれが簡略化されて隷書へと移行したと言われている。
甲骨・金文文字などから、篆書へと移行することは見当がつくが、そこから隷書への移行は筋道としてなんだか腑に落ちなかった。
篆書体の規則的な曲線は書いてみれば分かるが、大変手間のかかる書体である。
そのような書体を忙しい中でたくさん書いていくのは、とても時間のロスになるだろう。
そう考えれば、あの優雅な曲線を全部取ってしまって、四角に文字を組む方が数段早く書けるようになり、慌ただしい中でも短い時間で効率よく仕事を進められるのは間違いないだろう。

古隷といわれるものは、私達が隷書の代表作のように目にする曹全碑のように八分がなく装飾性が見られない。やはり、文字も日常の生活の中だけで必要とされている間は、装飾性というものをあまり必要とはしないのではないだろうか。それが、やがて生活にゆとりが生まれ、中央の人の目を楽しませるためなどの用途が出てくることで、曹全碑のような流美なものへと変化していくように思われる。
この刻石はその流れよりも、少し前のものなので八分はあるが波磔をあまり強調しておらず
のびやかに大きく動く線の魅力が大いに溢れていて、こののどかさがその頃の人々の生活を表しているように感じる。

私は器や雑貨が好きで集めているが、特に作り手の手が感じられるものを好んでいる。
生活の中で必要に応じて洗練されていく技術の持つ線や表情の美しさにとても惹かれる。
この開通褒斜道刻石にもそのような魅力を強く感じるのである。

書の作品を作る中で言葉でも表現でも、自分の内面をさらけ出して自分らしさを見せることが重要に思うがそれはとても難しい。
人に見てもらうと考えると恥ずかしさや欲が出たりして、奇を衒ったりしてしまう。
本来の自分と装飾性、その丁度良い場所を探すのがとても大変なことのように思う。
開通褒斜道刻石は、この私の感じる丁度良い位置にある作品だ。
これから作品を作っていく中で、いつか何年経っても書いた時の自分を感じられるような作品が沢山出来ることを目標にし、素晴らしい作品と触れあいながら学んでいこうと思っている。


先日、このような長い書論を書いてみました。
一つの書を掘り下げると、その時代の背景や関係性が見えてきて、面白いものです。
また、何かいつか書いてみようと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました!!
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by fujimi_maesaki | 2012-07-19 21:28 | 書論
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